遺産分割に関する裁判所での手続き(調停、審判、裁判)と流れ

遺産分割の手続

 遺産分割について、相続人の間で協議がまとまらない場合や何らかの理由で協議が出来ない場合、相続人は、家庭裁判所に遺産分割調停もしくは遺産分割審判の申立をすることができます。

遺産分割調停と遺産分割審判の違い

 遺産分割調停とは、家庭裁判所において相続人同士の話し合いで遺産の分け方を決める制度です。

 片や遺産分割審判とは、審判官(裁判官)が法律や判例などに基づいて遺産の分け方を決めてくれる制度です。

 遺産分割での調停や審判、訴訟(裁判)について
調停であれば相続人同士の話し合いで遺産の分け方を決め、審判であれば審判官(裁判官)が法律や判例などに基づいて遺産の分け方を決めてくれます。

 相続人は、調停と審判のどちらも申し立てることが可能ですが、いきなり審判の申立をしても、まずは、話し合いによる解決を試みるのが望ましいとされ、調停手続に付されるのが一般的です。

 調停による話し合いが決裂して、調停が不成立になると、審判手続に移行し、審判官(裁判官)が遺産の分け方を決定します。

遺産分割調停について

 どこの裁判所に申し立てたらいいか?

 遺産分割調停を管轄する裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

 例えば、自分が横浜に住んでいて、相手方が札幌に住んでいる場合、札幌の家庭裁判所に対して調停を申し立てる必要があります。

 もっとも、相続人が3人以上いる場合には、自分以外の者の住所地で構いません。

 例えば、相続人が長男(札幌在住)、次男(横浜在住)、三男(東京在住)といて、次男・三男は仲が良く、長男と対立しているとしましょう。

 この場合、次男が、長男と三男を相手方として、東京家庭裁判所に対して調停を起こすことができるのです。ただし、裁判所の判断で別の裁判所に移されることもあります。

 必ず家庭裁判所に行かないといけないのか?

 代理人を立てれば、本人は行かなくて済む場合もあります。

 また、最近では、電話会議の方法も認められていますので、遠方の場合は電話会議にしてもらうよう裁判所に頼んでみましょう。 

 遺産分割調停の流れ

 遺産分割調停では、社会経験豊富な人や専門的な知識を持った人から選ばれる調停委員を仲介者として相手方と話し合いをしていきます。遺産分割調停は1か月~2か月に1回程度行われます。(調停委員については、裁判所のページをご覧ください。)

 調停は、あくまでも、相続人全員の合意がないと成立しないのですが、中立の立場にある調停委員を介することによって、当事者同士で直接話し合いをするよりも、感情的な対立を抑えることができます。

 調停がまとまったら、裁判所の書類(調停調書といいます)にその内容がまとめられ、それにもとづいて相続を行うことになります。相手方が調書の内容に従わない場合は、強制執行の手続きをとることもできます。

 遺産分割での強制執行とは?

 ここでいう強制執行とは、裁判所に申し立てることにより、調停調書で定められた権利を強制的に実現させる手続です。

 たとえば、相続人AさんとBさんがおり、Aさんが遺産である不動産をもらい、その代わりにAさんがBさんに1000万円を支払う、という内容の調停が成立したとします。

 この場合に、BさんがAさんに1000万円を支払わない場合、Aさんは裁判所に申し立てることにより、Bさんの預貯金や不動産を差し押さえることができます。

 遺産分割調停の流れの詳細は、こちらのページをご覧ください。

 遺産分割調停の注意点

 調停委員は、仲介者として、遺産分割がまとまるようにアドバイスをしてくれます。

 もっとも、調停委員は、法的根拠のない主張や、証拠のない主張を繰り返す側の言い分を聞いてくれるようなことはありません。また、一方に有利な判例などを調べてくれることもありません。

 調停を有利に進めるためには、証拠の有無を調べ、法律や判例などの根拠に基づいた主張をしていく必要があります。

 調停をする場合は、弁護士に代理人になってもらって調停に同席してもらうか、最低限でも、調停前に弁護士にアドバイスを受けておいた方がいいでしょう。

 また、相手方に弁護士がついている場合には、調停委員も、プロである弁護士の意見に押し切られてしまう場合もあります。自分に不利にならないよう、こちらも弁護士をつけることをお勧めします。

遺産分割調停の呼び出しを受けたら?

 遺産の分割方法について希望がある場合や、申立人の意見に反論したい場合は、調停に出席するか、または書面で意見を裁判所に伝えた方がよいです。

 呼出を受けた日時の都合が悪いという場合もあると思います。そのような時は、裁判所に連絡をして、第2回以降の日時の調整をしてもらいましょう。

遺産分割審判について

 遺産分割審判とは、先ほども述べたように、審判官(裁判官)が法律や判例などに基づいて遺産の分け方を決めてくれる制度のことです。

 遺産分割調停での話し合いがまとまらず、調停が不成立に終わった場合は、遺産分割審判の手続きに移行します。

 遺産分割審判では、裁判官が、双方の主張と証拠を踏まえた上で、遺産の分割方法について判断します。判断内容を審判といいます。

 審判の内容に納得できない場合は、2週間以内に不服申立てをすれば、高等裁判所の判断を仰ぐことができます(これを抗告といいます)。期限内に不服申立てをしないと、審判の内容が確定し、強制執行などを受けることもあります。

遺産分割の前提となる事実に争いがある場合

 遺産分割の前提となる事実に争いがある場合は、遺産分割をする前にその問題に決着をつけておく必要があります。

 相続人は誰なのか、遺産はどれなのか等、遺産分割をするためには、そういった前提事実が確定していることが必要です。相続人間の話し合いで、前提問題の解決ができれば良いですが、話し合いで決着できないときは、最終的に訴訟(裁判)を提起して解決を図ることになります。

遺産分割に関する訴訟(裁判)

 遺産分割の前提となる事実に関する訴訟(裁判)としては次のようなものがあります。

 相続人の地位や範囲について争いがある場合

→相続人の地位不存在確認訴訟

 例えば、夫が死亡し、戸籍上の相続人が後妻と先妻の子である場合、子が、後妻の相続欠格事由(例えば、(1)夫を後妻が殺害した、(2)後妻が夫に無理矢理遺言を書かせたなど)があるとして、あるいは夫と後妻の結婚が無効であるとして、子が後妻の相続人の地位を争うという場合です。

 遺産の範囲に争いがある場合

→遺産確認訴訟、所有権確認訴訟、共有持分権確認訴訟

 父が死亡し、相続人が長男と次男であるという事例において、長男名義の不動産が、実際には父が購入したもので、父は名義を長男に借りただけという場合を例に説明します。

 この場合に、次男が、「長男名義の不動産は、父の遺産に含まれる」ということの確認を求めて提起するのが遺産確認訴訟です。

 なお、次男は、長男名義の不動産は父の遺産なので、「この不動産は長男と次男の共有になる」として、次男の共有持分権の確認を求めて共有持分権確認訴訟を提起することもできます。

 もっとも、遺産確認訴訟によるのが一般的です。 また、長男からも、「この不動産は父の遺産ではなく、自己固有の財産である」として、この不動産の所有権が自分にあることの確認を求めて所有権確認訴訟を提起することができます。

 被相続人の生前にお金が引き出されていた場合

→不当利得返還請求訴訟

 例えば、母親が死亡し、長男と次男が相続人という事例において、母親と同居していた長男が、母親が死亡する前に、母親のキャッシュカードを使って、母親名義の口座からお金を引き出していた場合です。

 長男が、母親の同意なくお金を引き出していて、それを母親の経費(病院代など)に充てたのではないのであれば、母親は長男に対して返還請求をすることができます。そして、母の死亡後は、その母親の不当利得返還請求権を、長男と次男が2分の1ずつ相続することになります。

 長男が任意に返還をしなければ、次男は長男に対して不当利得返還請求訴訟を提起することができます。

 遺言書の有効性に争いがある場合

→遺言無効確認訴訟

 例えば、父が死亡し、相続人が長男と次男である場合に、長男に全財産を相続させるとの父の遺言が見つかったという場合に、次男がその遺言が無効であると主張して提起するのが遺言無効確認訴訟です。

 遺言書の内容に不服があるときの裁判所での手続(調停、審判、訴訟)については、こちらもご参照ください。また、遺産分割に関する訴訟(裁判)の弁護士費用については、弁護士費用(民事訴訟・調停・交渉事件)をご覧ください。

調停か訴訟(裁判)か

調停と訴訟(裁判)の違い

 調停とは、簡単に言えば、一般市民から選ばれた調停委員が間に入り、話し合いによって決めること。また、訴訟とは、裁判官が一刀両断に決めることです。

前提事実に争いがある場合は訴訟をした後に調停をするのが原則

 前記のように、遺産分割の前提となる事実(遺産の範囲、相続人の範囲、遺言書の有効性等)に争いがある場合、原則としてまずは訴訟で前提事実について決着をつけた後に、改めて調停を申し立てて、分割方法を話し合うことになります。

 遺産分割調停はあくまでも遺産の分け方を話し合うための手続であって、その前提問題を解決するための手続ではないからです。

でも前提事実を調停で話し合うことができない訳ではない

 もっとも、遺産分割調停において、お互いが了解すれば、前提問題についても話し合い、解決できることもあります。

 ですので、必ず訴訟を提起して前提問題を解決してからでないと遺産分割調停を申し立てることができないという訳ではありません。

 訴訟による解決は往々にして年単位で時間がかかりますし、また、訴訟をした後に改めて調停を行うとなると手間がかかるので、できれば1つの手続で一挙に解決した方が便利です。

ではいきなり調停にするかそれとも訴訟を提起すべきか

 前提事実を決着するため先に訴訟を提起するべきか、それとも遺産分割の調停を申し立てるべきかは、難しい選択といえます。

 相続人同士の感情的対立が激しくなく、訴訟になった場合の結論がほぼ目に見えている場合、他方の譲歩を引き出すことが可能であるなどの事情があれば、訴訟をせずにいきなり調停を申し立てるという選択をしてもいいでしょう。

 しかし、相続人同士の対立が激しく、訴訟の見込みも確実なところは分からず、調停の話し合いは平行線をたどることが確実だという場合には、調停を申し立てても無駄であり、はじめから訴訟を提起する必要があるでしょう。いきなり調停を申し立てても、調停→訴訟→調停と、二度手間になりかねません。

 このように、訴訟を提起すべきか、とりあえず調停を申し立てるかは、前提問題について証拠を検討し、訴訟での勝敗を視野に入れた上での微妙な判断が求められます。 

 したがって、遺産分割だけでなく、その前提問題について争いがあるという場合には、どのような方法により解決をはかるべきかについて、弁護士に相談することをお勧めします。

協議、調停、訴訟の流れ

 事案によりますが、遺産分割に関する協議、調停、訴訟は概ね次のような流れになります。

 遺産分割の協議や調停、審判といった流れの中では、まず、相続人や遺産の範囲等の前提問題の調査をして解決をする必要があります。

 前提問題に争いがある場合には、相続人の確定や遺産の範囲に関する裁判を行うこともあります。前提問題に争いがない場合や、裁判等で前提問題が解決した場合には、遺産分割協議を開始します。

 遺産分割協議が決裂した場合には、遺産分割調停を行う必要があります。

 遺産分割調停でも合意ができない場合には、遺産分割審判での解決を行う必要があります。

不服申立てをする場合

 上記のとおり、遺産分割の前提となる問題(遺言の有効性、相続人の範囲、遺産の範囲等)については、話し合いで解決できなければ、調停ではなく、訴訟で決着をつけます。

 そして、裁判所の判決に不服があれば、上級審(高等裁判所)に対して、控訴(不服申立て)をすることができます。

遺産分割は、上記のとおり、手続の流れが複雑ですし、どの手続を選択すべきかの判断にも専門的知識が必要です。遺産分割に関する法律相談なら、横浜の上大岡法律事務所にお任せください。


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